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The Storm Chaser

  

スーパーセル - Supercell

発達した巨大な積乱雲のことであり、強力なエネルギーと持続性を持っています。単一セル内に上昇気流と下降気流、2つの循環系を持ち、内部では激しい対流を伴っています。スーパーセルの特徴として、反時計回りの回転、フックエコー(鉤状エコー)があります。メソサイクロンにより雲が回転を伴い、気象レーダーには降水の強い部分が鉤状に映ります。上昇気流と下降気流の境界には、地上に向かって降りてくる壁雲(Wall Cloud)が形成され、見た目にも非常に恐ろしく、威圧感のある姿と言えるでしょう。

*北半球では雲・渦の回転は反時計回り、南半球では雲・渦の回転は時計回りになる。

通常、積乱雲の寿命は30分~1時間程度に対し、スーパーセルの寿命は数時間にもおよびます。スーパーセルにより、雷、降雹、長時間の強雨、ダウンバースト、竜巻などが発生します。極端に荒れた天候が長時間続くことがあり、Severe Weather(シビアウェザー)とも呼ばれます。

*セル、降水セル、ストームセル・・・雨雲・低気圧を構成する空気の塊。
*対流・・・暖かい空気(軽い・上昇気流)と冷たい空気(重い・下降気流)の循環、流れ。
*フックエコー(鉤状エコー)・・・エコー画像、降水の強い部分が鉤状に分布している状態。
*メソサイクロン・・・スーパーセルに発生する小規模な低気圧、上昇気流を伴う渦。

スーパーセル

2009年6月2日 積乱雲の雲底に壁雲(Wall Cloud)が形成された。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

Wall Cloudは暖かな上昇気流が下降気流による冷たい雨と触れることで形成され、降下してきます。発達した積乱雲の雲底に付随し、上昇気流と下降気流、無降水域と降水域の境界付近に発生します。高湿度の環境では、Wall Cloudから降水域に向かってのびるTail Cloudが形成されることもあります。Tail CloudはWall Cloudの延長であり、ベースとなる部分はほぼ同じです。



発達した積乱雲の雲底に、こぶ状に盛り上がる雲、乳房雲(ちぶさぐも)が現れることがあります。乳房雲は、雲底で上昇気流と下降気流が衝突した際に、こぶ状になって現れる乱流です。

*乱流(渦巻き)・・・流体(水・気流など)の流れが乱れ、不規則になること。乱気流など。

乳房雲

2010年7月23日、積乱雲の雲底に現れた乳房雲(ちぶさぐも)。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

アメリカでは「乳房雲を見たら丈夫な建物に避難しろ」と言われるくらい、広く知れ渡っています。低い位置に現れる乳房雲は竜巻の前兆とされ、こぶがハッキリしているほど乱流が強くなります。乳房雲の出現は強い下降気流が発生している証拠であり、大雨、降雹、突風などに警戒が必要です。



2011年7月10日、茨城県北部で局地的に50mm/hを超える、非常に激しい雷雨が観測されました。茨城県西部より撮影していましたが、14時頃~16時頃まで、2時間以上も持続していました。当日のレーダー画像には、スーパーセルの特徴であるフックエコーも映っていました。

図解スーパーセル

2011年7月10日、典型的な形のスーパーセルが現れた。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

スーパーセルを図解で説明します。

*Anvil・・・金床・かなとこ。雲の頂上部分が対流圏界面に達し、それより上昇できず左右に広がる。左右に広がり続けるのは発達が続いている証拠。
*Overshooting Top・・・雲の頂上部から、上昇気流が対流圏界面を突き抜けた部分。
*Flanking Line・・・本体に隣接する積雲の列。上昇気流により本体に吸収される。
*Precipitation Area・・・雨の降るエリア・降水域。下降気流域にできる。
*Updrafts・・・上昇気流域、軽く暖かい空気。
*Downdrafts・・・下降気流域、重く冷たい空気。

*対流圏界面・・・対流圏と成層圏の境界。気象現象が起こるのは大気層最下部にある対流圏。



1990年12月11日に千葉県茂原市で発生したF3の竜巻は、スーパーセルにより発生しています。国内最大級の竜巻を発生させたスーパーセルの寿命は、なんと7時間にもおよびました。この日、前線を伴う発達した低気圧の通過により、関東地方は大気の状態が非常に不安定でした。茂原市を含む、千葉県内の6ヶ所で竜巻が発生しています。

かなとこ雲

2009年7月26日、群馬県中南部に激しい雷雨をもたらしたかなとこ雲。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

成長過程で雲頂部に多毛雲が発生するため、かなとこ上部に毛羽立った雲が見えるのは、まだまだ発達が続いている証拠です。この様な雲が近づいてくる場合は警戒してください。

*関連記事 「防災気象情報を活用」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/40/
*関連記事 「境目が危ない」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/33/

*当サイト内で使用している写真は全て管理人自身による撮影です。写真の無断転用は厳禁です。

マルチセル - Multicell

複数の降水セルで構成された積乱雲群のことで、新旧交代をしながら長時間持続、大雨を降らせます。個々のセルは組織化され、発生・発達・成熟・衰退を繰り返します。衰退期のセルから噴出す下降気流と暖かな空気が衝突し、新たなセル(ガストフロント)を形成します。5月~9月頃に発生することが多く、長時間の大雨、同時多発的な集中豪雨が発生しています。ダウンバーストや竜巻などの局地現象を伴うことも多く、突風、雷、雹にも注意が必要です。水はけの悪い都市では、道路の冠水、地下道・地下鉄が冠水するなど、都市型洪水が発生しています。

*降水セル、セル、ストームセル・・・雨雲・低気圧を構成する空気の塊。
*ガストフロント・・・突風前線、気流の衝突により発生する局地的な寒冷前線。上昇気流を伴う。

集中豪雨

2009年7月27日 前線の南側で同時多発的な集中豪雨が発生。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

この日、前線南側に位置する、関東、東北南部、東海地方で同時多発的に集中豪雨が発生しています。浜松市で82mm/hの雨、仙台市で55.5mm/hの雨、館林市でF1~F2の竜巻が発生しました。

*マルチセルの種類

・クラウドクラスター・・・組織化された複数のセルが新旧交代をしながら長時間持続する積乱雲群。これらの雲がひとつにまとまり、渦を巻くようになると熱帯低気圧・台風になる。

・スコールライン・・・寒冷前線の進行方向に向かって平行に並ぶ(新旧交代を繰り返す)積乱雲群。衰退期の積乱雲から噴出す下降気流からガストフロントが発生し、積乱雲が線上に並ぶ。

・バックビルディング・・・積乱雲の風上に次々に新たなセルが発生し、長時間の集中豪雨をもたらす。同じ場所で大雨が持続するため、災害を引き起こす可能性が高い。



2009年7月27日14時頃に群馬県館林市で発生した竜巻は、マルチセルにより発生しています。気象庁のドップラーレーダーによる観測では、ガストフロントの存在と複数の渦も確認されており、ガストフロント上に発生した渦が竜巻本体と見られています。

マルチセル

2009年7月27日 館林市方面に南北に連なる積乱雲が発生。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

2009年7月27日14時頃、群馬県館林市方面に南北に連なる巨大な積乱雲を目視で確認しています。写真奥にかなとこ状の積乱雲があり、埼玉県~群馬県~栃木県を跨ぐかたちで見えていました。その後、カーラジオで突風発生の一報を聞き、写真の積乱雲が原因と知った次第です。観測地の茨城県筑西市から群馬県館林市までは、約50kmの距離です。

*関連記事 「ダウンバースト - Downburst」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/9/
*関連時期 「ガストフロント - Gust Front」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/7/
*関連記事 「漏斗雲 - Funnel Cloud」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/6/
*関連記事 「国内最大級はF3」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/2/

*当サイト内で使用している写真は全て管理人自身による撮影です。写真の無断転用は厳禁です。

地震雲は俗説

地震雲には科学的根拠は無く、時としてデマの元になる俗説です。阪神大震災以降にマスメディアを中心に広まり、勝手な解釈で一人歩きしてしまいました。目撃情報のほとんどは後から付け加えられたものであり、信憑性に乏しいものばかりです。地震雲と呼ばれる雲には、放射状に広がる雲、帯状にのびる雲、竜巻状の雲などがあります。写真等で検証してみると、そのほとんどは巻雲(けんうん)か飛行機雲の形が崩れたものでした。また、肯定派から断層雲と呼ばれる雲は、そのほとんどが夕日に染まる層積雲です。テレビの情報番組等で特集が組まれ、大げさな効果音とともに、もっともらしい解説をしているため、騙されてしまう人が多いようです。少しでも気象学をかじっている人が見れば、すぐに嘘だとバレてしまうようなお粗末な内容です。

*地震雲は俗名であり、気象学的な定義はありません。国際雲図帳にも分類されていません。

層積雲

2010年7月12日 梅雨の晴れ間、夕日に染まる層積雲。© Yutaka Aoki. All rights reserved.



大手検索サイトより「地震雲」で画像検索をした結果、巻雲(すじ雲)、巻積雲(うろこ雲)、飛行機雲、層積雲、レンズ雲(つるし雲)、高積雲(ひつじ雲)、波状雲など、気象好きから見れば特に珍しくない雲ばかりが表示されました。上記の雲は時に奇妙な形を形成することがあり、見た目から悪い印象を受けたのかもしれません。また、垂直の光芒「太陽柱・月柱」を、地震に関連する発光現象と力説されている方もいるようです。太陽柱・月柱は大気光学現象のひとつであり、こちらも地震との因果関係は証明されていません。揺れの最中に起こる発光現象は、送電設備の破損による発光である可能性も指摘されています。

高積雲

2008年9月23日 秋の夕暮れ時、帯状にのびる高積雲。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

肯定派の方々は雲の形だけで判断しており、当日の気象条件と照らし合わせることをしていません。雲の発生には必ず気象的な要因があり、地震と関連付けるには無理があります。偶然の一致があったとしても、科学的根拠が無ければそれを証明することは出来ないのです。結論として、地震雲は噂の一人歩き、思い込みや恐怖心が作り出した俗説と考えています。毎日どこかで地震が発生している地震大国日本ですから、こじつけ話を作りやすい環境と言えます。雲で地震を予知出来るなら、関係省庁も苦労しませんよ。



*予知、予測に関して、科学的根拠があるものをいくつか挙げておきます。

・太陽に暈が掛かると雨・・・巻雲、巻層雲は低気圧の接近に伴い発生する。
・山に笠雲が掛かると風・・・低気圧・前線からの風が山の斜面に当たって雲が形成される。
・夕焼けの翌日は晴れ・・・日本の天気は、偏西風により西から東に移動する。
・遠くの音が良く聞こえると雨・・・湿度が高いと音の伝達速度が速くなるため、良く聞こえる。

幻日

2010年7月18日、巻雲と幻日、太陽光の屈折により現れる。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

*2011年現在、特定の雲の出現と地震発生の因果関係は証明されていません。
*公的機関での研究も進んでおらず、裏を返せば研究に値しないテーマと言えるでしょう。
*地震雲は、都市伝説やオカルト信仰の類であり、悪徳商法にも利用される悪しき俗説です。

*当サイト内で使用している写真は全て管理人自身による撮影です。写真の無断転用は厳禁です。

写真家・青木豊

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