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The Storm Chaser

  

ダウンバースト - Downburst

積乱雲から噴出する強い下降気流をダウンバーストと呼びます。簡単にメカニズムを説明すると、雨粒が落下する際に周囲の空気を一緒に引きずり下ろし、落下速度を加速させます。さらに乾燥した空気層を通過する際に、急激な蒸発により気化熱を奪われて温度が低下し、冷やされた空気の密度が高くなって(重くなって)下降気流の速度が増します。速度の増した下降気流は勢い良く地面に衝突し、水平方向に広がる突風となります。竜巻と違って範囲が広く、中心から放射状に広がるのが特徴です。突風の広がる範囲が4km以内をマイクロバースト、4km以上をマクロバーストと呼びます。より範囲の狭い、マイクロバーストの方が威力は強いと言われています。国内で発生するダウンバーストの多くはF0~F1で、季節に関係なく1年中発生します。発生の前兆として、強い下降気流が発生した時に現れる乳房雲の出現や、大粒の雨や雹が降る時は要注意です。

乳房雲

図解ダウンバースト

低い位置に現れる乳房雲は、天気が荒れる前兆である。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

70年代後半に藤田哲也博士により解明される以前は、ホワイトスコール(白い嵐)と呼ばれ船乗り達に恐れられていました。1961年5月にメキシコ湾を航海中の帆船アルバトロス号がホワイトスコールにより遭難、沈没し6人が犠牲になっています。リドリー・スコット指揮のもとで、映画化もされています。ダウンバーストは航空機にとっても脅威であり、1985年8月にアメリカ起きたデルタ航空191便墜落事故は、マイクロバーストにより墜落し、貯水タンクに激突して爆発炎上、乗客135名が犠牲になりました。現在は空港へのドップラーレーダー設置が進み、安全運航に役立てられています。

ダウンバースト

ダウンバースト

ダウンバースト

強い下降気流が地面に衝突し、水平方向に広がっていく。© Yutaka Aoki. All rights reserved.



強度の分類には竜巻と同じ藤田スケールが用いられています。国内で発生したダウンバーストで最大級なのはF2で、1996年7月に茨城県下館市(筑西市)で発生しています。私自身も車で走行中に遭遇し、路肩に停車してやり過ごしたことをハッキリと覚えています。一瞬にして目の前が真っ白になり、突風に煽られた車がガタガタ揺れて恐ろしい思いをしました。かなり大きな雹も降り、車のボディがボコボコにへこんでしまう程でした。この時は不幸にして1名の方が亡くなられましたが、原因は突風で吹き飛ばされた太陽光パネルの直撃でした。JR川島駅も直撃し、ガラスが割れるなどの被害が出ましたが、待合室に居た高校生は自販機の影に隠れて難を逃れています。2003年にも茨城県神栖町(神栖市)でF2のダウンバーストが発生し、2名の方が亡くなられています。







*当サイト内で使用している写真は全て管理人自身による撮影です。写真の無断転用は厳禁です。

トルネード街道 - Tornado Alley

2011年4月25日から28日に掛けて、アメリカ南部で大規模な竜巻被害が発生しました。多くの犠牲者が出た上、原発の損傷も出ています。4月25日から28日までの4日間に400個を超える竜巻が発生し、史上二番目の大きな被害が出ています。2011年5月22日夜には、中西部ミズーリ州ジョプリンで大規模な竜巻被害が発生しています。竜巻の強度はEF5と見られ、単独の竜巻としては米国史上最悪の犠牲者を出しています。4月の竜巻発生数は875件だそうで、わずか1ヶ月で年間発生数に達しことになります。

全世界で発生する竜巻のうち約8割(800~1,000個)はアメリカで発生し、4月~7月頃に集中しています。その中でもアメリカ中西部と南部内陸部で発生頻度が高くなっています。東西をアパラチア山脈とロッキー山脈に囲まれ、メキシコ湾からの暖気とカナダからの寒気がぶつかり、大気の状態が非常に不安定になりやすい地域です。俗にトルネード街道と呼ばれるのは次の州で、オクラホマ、カンザス、テキサス、ネブラスカ、ミズーリ、イリノイ、アイオワ、アーカンソー、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダ、サウスダコタとコロラドの一部も含まれます。逆にロッキー山脈の西側ではほとんど竜巻が発生しておらず、アメリカ西海岸では一生に一度も竜巻を見ない人が沢山います。

National Geographic / Joplin, Missouri, Tornado Pictures(外部リンク)
F5 and EF5 Tornadoes of the United States(外部リンク)

壁雲

ウォールクラウド。写真はイメージであり、日本で撮影。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

映画「オズの魔法使い」で、主人公のドロシーが竜巻に遭ったのはカンザス州の農場でした。グレートプレーンズと呼ばれるアメリカ中西部に広がる大平原、この辺りは世界でも有数の穀倉地帯であり、トウモロコシ、大豆、小麦などが有名です。カンザス洲はアメリカ国内における田舎の代表格で、多くのアメリカ人は「トウモロコシと竜巻」を思い浮かべるのだとか。それもそのはず、カンザス州はアメリカ国内でも竜巻の発生数がずば抜けて多い地域で、カンザス州も含めた周辺地域はトルネードアレイと呼ばれています。カンザス洲、ネブラスカ州、オクラホマ州、テキサス州、この地域を拠点に活動しているストームチェイサーも多く、竜巻見学ツアーが開催されているのもこの地域です。

ストームチェイサーの人間模様を描いた映画「ツイスター」に登場する、竜巻観測装置の名称がドロシーでした。劇中に登場するワキタ(Wakita)は、オクラホマ州グラント郡の小さな街です。ワキタにはツイスターミュージアムがあり、劇中に登場した観測装置ドロシーも展示されているようです(HPのMuseum Tourで見られます)。

かなとこ雲

発達した積乱雲。写真はイメージであり、日本で撮影。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

*1950年から2009年までの統計(アメリカ国立気候データセンター)を元にした竜巻発生数。

■ 1位 テキサス州 8049個
■ 2位 カンザス州 3809個
■ 3位 オクラホマ州 3442個
■ 4位 フロリダ州 3032個
■ 5位 ネブラスカ州 2595個
■ 6位 アイオワ州 2368個
■ 7位 イリノイ州 2207個
■ 8位 ミズーリ州 2119個
■ 9位 ミシシッピ州 1972個
■ 10位 アラバマ州 1844個

竜巻の強度を分類する藤田スケールの最上位はF5ですが、1999年5月3日、オクラホマ州ブリッジクリークで非公式ながら最大風速142m/s(F6)の竜巻が観測されています(99年当時は従来型のFスケールが採用されていたため、Fスケール表示です)。

2013年5月15日、テキサス州北部で少なくとも13個の竜巻が発生し、多数の死傷者、行方不明者が出ています。被害が大きかったグランベリーでは、住宅の倒壊や車が飛ばされる被害が出ています。竜巻の強さはEF4に相当すると見られています。5月19日には、オクラホマ州、カンザス州、イリノイ州、アイオワ州で26個の竜巻が発生し、多数の死傷者が出ています。オクラホマ州とカンザス州の被害が特に大きく、大規模な停電、住宅の倒壊、18輪トレーラーが吹き飛ばされる被害も出ています。5月20日にも直径3kmを越える大規模な竜巻が発生し、児童を含む多数の死傷者、行方不明者が出ています。オクラホマ州オクラホマシティー南郊のムーア市では小学校が倒壊、竜巻の強さはEF5に相当すると見られています。アメリカでは4月から7月に竜巻が集中していますが、過去20年の統計では、5月に最も多く発生しています。

Tornado Alley / Tornado Activity In The United Stars 1950-1998(外部リンク)

漏斗雲

竜巻の前兆、漏斗雲。写真はイメージであり、日本で撮影。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

世界規模で見ると中緯度の地域で竜巻の発生が多く、アメリカ、インド、イギリスが竜巻発生数のベスト3です。日本では年間約20個の竜巻が発生していますが、その多くはF0~F1で、過去最大級はF3です。過去に国内でF3の竜巻が発生したのは、千葉県茂原市、愛知県豊橋市、北海道佐呂間町、茨城県つくば市の4ヶ所です。

*関連記事 「竜巻の県別発生件数」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/3/
*関連記事 「国内最大級はF3」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/2/
*関連記事 「藤田スケール - F-Scale」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/1/
*関連記事 「改良藤田スケール - EF-Scale」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/90/
*関連記事 「漏斗雲 - Funnel Cloud」 http://tornado.blog.shinobi.jp/Entry/6/

*当サイト内で使用している写真は全て管理人自身による撮影です。写真の無断転用は厳禁です。

ガストフロント - Gust Front

気流の収束により発生するメソスケールの前線、これだけ読んでも何のことかわからないと思います。積乱雲から吹き下ろす冷たい空気と、周囲の温かい空気が衝突したところに発生する局地的な前線、それがガストフロントです。Gustは突風、Frontは前線を意味し、陣風線や突風前線とも呼ばれます。強い上昇気流を伴い、稀にガストネード(突風性の旋風)が発生することがあります。メカニズム的にはつむじ風に近く、竜巻とは全くの別物です。ガストフロントが発生すると、急激な気温の低下、風向きの急変、気圧の急上昇、落雷や雹といった激しい現象が発生します。

*ガストフロント発生時のレーダー画像 群馬県館林市 / 茨城県取手市(外部リンク)



ガストフロント

ガストフロント

ガストフロント

ガストフロント

図解ガストフロント

積乱雲に付随するアーチ雲は、副変種として扱われる。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

冷たい空気と暖かい空気が衝突すると、お互いに行き場をなくし、密度の小さい(軽い)温かい空気が冷たい空気に乗り上げる形で上昇気流が発生します。上昇気流により積雲が発生し、前線に沿ってアーチ状の雲列が形成されます。ガストフロントが可視化した姿でもある、アーチ雲と呼ばれる積乱雲の雲底に付随する雲です。アーククラウドやシェルフクラウドとも呼ばれますが、日本ではアーチ雲と呼ぶのが一般的です。特に高湿度の状況下では、アーチ雲から地上に伸びるテーパー状の雲、テイルクラウドが形成されることがあります。極端な温度差により形成され、無降水域から降水域に向かって伸びていきます。テイルクラウドは漏斗雲と並んで危険な雲の代表格であり、この雲を見たらかなりヤバい状況だと考えていいでしょう。

ガストフロント

ガストフロント

高湿度の状況下で現れたテイルクラウド。危険な状況だ。© Yutaka Aoki. All rights reserved.

ガストフロントの発生は珍しいことではなく、多くの人は遭遇しているはずです。知名度が低いためゲリラ豪雨の一言で片付けられてしまうことが多く、発生していることにすら気付かれないのが現状です。低い位置に垂れ込めた暗雲が、勢い良く頭上を通過して行くような時はガストフロントの可能性が高いです。







最近の事例
2012年8月6日 新潟県新潟市・五泉市 負傷者5名 住宅半壊1戸 樹木・電柱倒壊等 F1
2011年7月5日 新潟県燕市 負傷者10名 屋根瓦・窓ガラスの破損等 F0
2011年4月25日 茨城県取手市 住宅屋根・プレハブ小屋の破損等 F0
2008年7月27日 福井県敦賀市 死者1名 最大瞬間風速29.7m/sを記録・テント破損等 F0

*当サイト内で使用している写真は全て管理人自身による撮影です。写真の無断転用は厳禁です。

写真家・青木豊

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